2010.03.05 Friday

白井弓子『WOMBS』凄ぇ

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    『WOMBS』、凄げぇ。凄い設定。

    “妊娠している雌だけが飛べる”現地生物ニーバス。その体組織を自らの子宮に移植して転送能力を身につける女だけの特殊部隊の物語。

    妊婦軍隊モノである。
    WOMBS、「子宮達」である。
    勇ましい軍曹は、少しお腹の出た女性。いや、軍曹だけではない転送兵すべて妊婦なのである。
    この一点が違うだけで、エイリアンとの戦争マンガが、一転して、まったく読み心地の違う新しいものになっている。
    どこに連れて行かれるのか想像もつかない1巻で、なんだか、うかつに感想を書くのもはばかられるようなゾクゾクするオープニング。続きが待ち遠しい。
    作者は白井弓子。『天顕祭』で、2007年文化庁メディア芸術祭マンガ部門受賞。初の同人誌受賞作品ということで話題になった。
    2010.03.04 Thursday

    『パーソナリティを科学する』を読む

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      外向性Extravesion
      中脳ドーパミン報酬システム。報酬を求め手に入れることを増強。肉体的な危険、家族の安定欠如。

      神経質傾向Neurotisism
      扁桃および大脳辺縁系、セロトニン。警戒、努力。不安、うつ。

      誠実性Conscientiousness
      背外側前頭前皮質。プランニング、自己抑制。融通のなさ、自発的反応の欠如。

      調和性Agreeableness
      共感要素。調和的社会関係。ステータスを失う。

      開放性Openness
      心の連想の広がり。芸術的感性、拡散的思考。異常な信念、精神病傾向。


      P222に出てくる「まとめの表」を元にしたが、こういうふうにまとめると本書のおもしろさは、あまり伝わらない。

      ダニエル・ネトル『パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる』は、「特性5因子であなたがわかる」という副題の通りの本だけど、「わかる」というのはどういうことか混乱してしまうほど、誠実な内容になっている。

      “相関関係(γ)とは、ある数量が変動するときに他の何らかの数量も変動する場合、その変動の度合いを示す指標である。相関関係が1ということは、第一の数量が第二の数量の変動の仕方を完全に予測できることを意味する。相関関係が0ということは、ひとつの数量が変化するとき、それは他の数量について何の情報も与えないことを意味する。人間の身長と体重の相関関係は、およそ0.68である。”P29
      多数の行動や特徴について相関関係を考慮しようとすると、計算すべきことが幾何学級数的に増える。そこで、データの冗長性(リダンダンシー)を取り除く因子分析でスリムにすると、“しばしば五つの因子が引き出される”P36。

      外向性Extravesion
      神経質傾向Neurotisism
      誠実性Conscientiousness
      調和性Agreeableness
      開放性Openness
      が、五因子につけられたレッテルだ。

      ターマンさんのパーソナル評定と死亡者の相関を研究を五因子に当てはめると、誠実性の高い人の死亡確率が低いことがわかる。
      もうひとつ、外向性が高ければ、死亡確率が高い。

      この五因子の本のおもしろさは、自己啓発的な励ましではなく、「外向性が高いと死ぬ確率あがるぜ」っていうような、ただの分類もしくは科学であろうとするところだろう。
      因果関係ではなくて、あくまで相関関係なんである。

      “外向性とは、ポジティブな情動の反応に観られる個人差である。外向性のスコアが高い人は反応性が高く、仲間、興奮、達成、賛美、ロマンスなどの快感を手に入れるために必死になる”P104
      “外向的たらしめるものは、腹側被蓋野、側座核、およびそれらの投射路を含む、一連のドーパミン系脳領域における高い反応性”P107
      すべてのパーソナリティ特性が、どれが良い悪いではなく、それぞれのメリットデメリットがあるという立ち位置で語ろうとする。
      「神経質傾向」という言葉はマイナスな匂いがするが、神経質傾向が高い人は、必死で努力する。失敗を恐れる傾向がその動機だ。とメリットを紹介する。だが、いきすぎるとワーカホリックになる。
      “ワーカホリックには神経質傾向が高い人が多い”P137。
      (カルロス・ゴーンや宮沢賢治などマゾヒスティックな性格がもたらす成功例を取りあげた矢幡洋『マゾヒスティックな人格―敗者復活する人と敗者のまま終わる人の心理学 』が、このあたりを詳しく扱っていてちょーおもしろい)

      「誠実性」も素敵な面ばかりではない。
      “誠実性とは、人が内にもっている基準やプランに固執すること”であるし、誠実性が高いと知能は低い(というか、強くはないが相関関係がある)。頭の切れる人は一人で勝手にやっちゃうので、組織的方法と訓練を学ぶ機会がないから。という説明が書いてある。

      調和性の「良さ」について、その集団内では「良い」が、それは、集団自体にとって「良い」ことではない。という指摘もおもしろい。

      五因子モデルの発達には、ゴールドンさんが、類義語集を使って、性格を描写する用語を研究したパーソナリティ語彙的研究が大きな意義をもたらした。と最初のほうに出てくる。
      その後、言葉のもつ問題には直接ふれられないのだが「性格」を扱うとき、共通の了解とされる言葉がはらむ問題にガリガリと振れながら、本書は、“自分の基本的なパーソナリティの傾向が今と違っていてほしいと願う理由など、まったくないということである。(…)自分が受け継いできたパーソナリティ・プロフィールの強みを利用し、弱点からくる影響をできるだけ小さくする”というところに着地する(最終章のタイトルは「自分の声で歌え」だ)。

      付・パーソナリティ評定尺度表。

      余談。
      andymori『ファンファーレと熱狂』(MySpace)、素敵な歌。
      2010.02.28 Sunday

      レイ・カーツワイル『ポスト・ヒューマン誕生』の凄い未来予測

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        レイ・カーツワイル『ポスト・ヒューマン誕生』
        「GNR革命(遺伝学・ナノテクノロジー・ロボット工学)で社会が大きく変わる」「特異点(シンギュラリティ)で進歩が加速する」の2つを軸に未来を予測する本。
        麻野一哉さんのレビューを引用すると
        “GNRの発達により、プログラム可能な血液ができる。それは体内を自律的に巡るので、心臓は不要になる。肺も同様。というか、酸素を取り込む効率がよくなるので、15分くらいは息つぎが不要になる。酸素ボンベなしで海底を散歩できるのだ。すい臓はシールのようになるから臓器の形をとらなくていい。大抵の臓器が不要になる。骨格は必要だがもっと強い素材に置き換えられる。皮膚はセックスしたいので、おいておく。老化部位は若返らせる。原理的には人類は不老不死になる。”
        さらには、人類バージョン2.0やら人類バージョン3.0の姿も示される。

        脳のアップロードなんていう『マックス・ヘッドルーム』的未来、さらには脳をより強力にする「脳のポーティング」(“2030年の終わりには現実のものとなってるだろう”!)、しまいには、非生物的経験へ移行、意のままに体を作ったり変えたり、ヴァーチャル・リアリティのさまざまな世界を舞台とするヴァーチャルな体、ホログラフィで投影された体、フォグレットが作り出す体、ナノボットの大群やその他のナノテクノロジーの形態で組織された物理的な体(←これ、かっこいい)、いくつものコンピューティング基板に転々と移り住み、どの思考媒体より長生きするその人は、本当にわたしなのだろうか。うはー引用するために読み返してると、また興奮してきて、断片的に抜き書きしてしまった。以上、P420あたり。

        「わたしは特異点論者だ」の章(特異点論者にはシンギュラリタリアンのルビがふられている。シンギュラリタンのほうがかわいいのに)の特異点論者宣言的なテキストは、勇ましい。
        “臨界点(ティッピングポント)にさしかかっている今世紀中に、自己複製能力をもつ非生物的な知能をとおして、太陽系全体にわれわれの知能を拡散させる準備が整うだろう。そして、それは太陽系以外の宇宙へも広がっていくだろう。”
        “「橋を足場にして橋を架け、さらにそれを土台として橋を渡す」(今日の知識をバイオテクノロジーへの架け橋とし、次にそのバイオテクノロジーの知識をナノテク時代への架け橋にする)方式により、寿命を劇的に伸ばすことだ。これにより、劇的な延命に必要な全知識はまだ揃ってないにもかかわらず、無限に生きる道が今開かれることになる。言い換えれば、今日全ての問題を解決しなくてもよいのだ。”
        “解決できない主要な問題は、われわれがはっきりと表現できないもの、そしてたいていは、気づきもしてないものだ。したがって、問題と遭遇したときに重要となるのは、まずそれを言葉(ときには方程式)で正確に表現することだ。それさえできれば、問題に立ち向かい、解決するアイデアを見つけられる”などなど。
        楽天的でB級な、でも破天荒でついつい夢中になってしまうSF小説を読んでいる気分になってくる。“今日地球上の全ての人間の脳を合わせたものよりも、一兆×一兆×一兆×一兆×一兆倍も強力だろう”(P591)って子供の喧嘩みたいになってるよ!

        600ページ超えの『ポスト・ヒューマン誕生』を92ページに軽くまとめた本が『レイ・カーツワイル 加速するテクノロジー』。いかがわしいほどの面白さは失しなわれているが、まあ、どんなことを言ってるのか手っ取り早く知りたい人向け。もしくは『ポスト・ヒューマン誕生』を読んでぼーっとしちゃった後に読む感じか。
        “人類が石の道具や火、車輪などの技術を生みだすまでは、さらに数万年を要しただけです。16世紀に誕生した印刷技術は普及するのには百年ほどしかかかりませんでしたし、現代の携帯電話やミュージックプレイヤーは数年単位で普及しています”P14
        “かつてのコンピュータは、大きな会議室ほどの大きさがありましたが、今ではわたしたちのポケットに入ります。それが衣服のなかに組みこまれるのは、もうすぐのことです。そして、より小さくなり、パワーを増したコンピュータは、次にわたしたちの体内に入ってきます”P49
        “人間はみな非常に似た構造の脳をもっていて、すべての人類における遺伝学的な多様性は、ヒヒの一群の多様性よりも少ないのです”P58
        “2020年には1台のコンピュータがひとりの人間の知性を凌駕する。そして、2045年には人間の知能の10億倍の能力をもった人口知能が登場し、人類とテクノロジーの関係が「特異点(人間の能力が根底から覆り変容するとき)」に達するという”P64

        あとがきにカーツワイル氏の未来予測が「フォワード・キャスティング法」だという指摘があり、未来予測には「フォワード・キャスティング法」「バックワード・キャスティング法」があることが紹介される。

        技術の状況や歴史を分析し、積み重ねるように未来を予測する方法が「フォワード・キャスティング法」。
        フォワード・キャスティング法は、大きな構造変化が生じないことが前提の予測方法。もし大きな構造変化が生じると予測と食い違ってしまう。
        あとがきでは何故か、カーツワイル氏の未来予測が古典的な「フォワード・キャスティング法」だと書かれてあるのだが、古典的かなー。「特異点」という概念は「大きな構造変化」とほぼ同じで、「特異点」を設定したおかげで、実はどんな予測だって可能になってしまっている。急激に未来の可能性が開かれちゃうので、まったく恣意的にチョイスできる。これって巧妙にフォワード・キャスティング法のルールをちょっとだけ逸脱している。だから、カーツワイルは荒唐無稽な未来像を示せるのだ。
        もうひとつの「バックワード・キャスティング法」は、将来の社会を想定して、そこから逆に我々は何をするべきかを推測していく方法。
        つまり、この二つの方法だと、未来予測はどちらにせよ、予測というよりも、希望的観測なのだけど、まあ、そもそも未来予測ってそんなもんだろうな。
        2010.02.11 Thursday

        Kindleと青空文庫

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          最近の『キンドル』読書。

          青空文庫というサイトは、著作権の消滅した作品がたくさん載っているサイト。そのテキストを、キンドル用に変換してくれるのが青空キンドル
          この2つ最高。

          青空キンドル青空文庫のテキストをキンドル用に変換して、太宰治作品を読んでいる。
          青空キンドルは、読みたい青空文庫のURLを入力するだけなので、とても簡単。
          しかも縦書きだ。ルビも、ちゃんと小さい文字で横に振られるぜ。
          kindlevyon
          太宰治「斜陽」を読んで、おもしろくて驚く。すげぇ。予想できない展開にのたうちまわる。ギロチン、立ちション、薬物中毒、文章そのもののおもしろさ、今更言うのもなんだけど傑作。
          それで、作品発表順に読んでいこうと「列車」「魚服記」を読む。
          「列車」、へんな小説。列車に書かれたスハ134273とFOR A-O-MO-RIの使いどころが絶妙。
          「魚服記」は変身譚。一章の瀧から落ちて死んだ学生の話と、二章以降の少女スワの話のイメージのつかず離れずの感じ。っていうかスワ萌え。市川春子(『虫と歌』)の絵を思い浮かべながら読んでしまった。

          「「晩年」に就いて」も素晴らしい。青空文庫で読めるし、短いのでぜひちょっと読んでみてください。(→「「晩年」に就いて」)

          ところが「思ひ出」がダメだった。旧字の一部がフォントの関係で(?)表示されない。青空文庫には旧字旧仮名バージョンしかない。
          しょうがないので、家にある文庫で読もうと思ったが、古い文庫なので字が小さい。読みにくい。紙の本のほうが読みにくいのだ(とはいえ、今、本屋に並んでいる文庫はもっと字が大きいから読みやすいだろう。昔の文庫って字が驚くほど小さいねー)。
          それで、飛ばして、「ヴィヨンの妻」を読んで、次何読もう。

          『ScanSnap S1500』にすべきなのか、『ScanSnap S1300』でいいのか、悩みはじめた。
          2010.02.10 Wednesday

          キンドルでゲームの本を読む

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            最近の『キンドル』読書は、『Vintage Games: An Insider Look at the History of Grand Theft Auto, Super Mario, and the Most Influential Games of All Time 』(のキンドルバージョン)と太宰治だ。

            『Vintage Games: An Insider Look at the History of Grand Theft Auto, Super Mario, and the Most Influential Games of All Time 』は、具体的なゲームタイトルが出てくるので、ゲームのこと知ってるから逆に英語が分かるという変な読み方になっている。とはいえ日本語のようにスラスラは読めない。ので、キンドルについている英英辞書を引いたりしてるとモタモタになって面白くなくなってしまう。
            が、音声読み上げ機能がついているので、使ってみると(スローでね)、良かった。
            分からない単語があっても、まあ、勝手にゆっくり読み進んでいくので、なんとなく分かったことにして先へ進む。もどって読んだりしなくなる。これで楽しくなった。
            自分で読んでいるとついつい調べたくなってテンポが落ちるが、読み上げだと、いやおうなくスピードについていかなければならないので、テンポが崩れなくていいな。
            2010.01.24 Sunday

            望月ミネタロウ『東京怪童』2巻よんだ

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              望月ミネタロウ『東京怪童』2巻を読んだ。
              “脳に問題を持った青少年達の治療と精神的ケアを目的とし研究をしている”クリスチャニア医院を舞台に展開する物語。
              主要登場人物のほとんどが神経学的マイノリティである。
              1巻は、まるで凄く上手い人が、脳を半分殺すよう自制して描いているような危うさがあって、つかもうとした時には描き手の核心がするするとページの先に逃げていることが、読んでいるぼくの気持ちをひどくドキドキさせた。
              だから、当然、待望していた2巻である。
              ところが、驚くことに、その奇矯な部分は収束するどころか、拡大拡散する。
              特に39ページからの「Samba de Bencao」をBGMに展開する8ページの傍若無人さは、なんだ。なんなんだ。抜けるように笑ってしまった。
              設計図を野放図にどこまで変換できるかというチャレンジなのではないかとすら思う。
              漫画内漫画も、すげぇな、なんだか。

              ものすごいクオリティでやばいものを読んでるような奇妙な興奮。走ってるギリギリのラインが見えなくなって、目が離せない。

              望月ミネタロウ『東京怪童』スゴイ
              2010.01.18 Monday

              望月ミネタロウ『東京怪童』スゴイ

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                望月峯太郎の初連載作品『バタアシ金魚』が大好きで、今でも時々読み返しては、ドキドキする。なんといっても得体が知れないところがいい。いや、要旨を述べると、水泳部の少年の恋愛物語で、映画化されたときもそのような軸の青春ドラマになっていたけれど、読んだときに受け取る印象はまったく異なる。なんだこれ。連載当時から、なんだこれなんだこれと言いながら読んだけど、今でも驚異的な「なんだこれ」の感じを手渡してくれてワクワクする。
                時間が立つと消化できるものが多いなかで、これだけ年月が立っても、得体の知れなさを残す漫画も少ないだろう。

                望月峯太郎の『ドラゴンヘッド』『座敷女』は、その得体の知れなさが、作品モチーフと直結した傑作なんだけど、直結していない『バタアシ金魚』『バイクメ〜〜〜ン』の秘かに不穏な感じを、ぼくは愛する。

                で、今連載中の望月ミネタロウ『東京怪童』、1巻を読んだ。
                “脳に問題を持った青少年達の治療と精神的ケアを目的とし研究をしている”クリスチャニア医院を舞台に展開する物語は、得体の知れなさが尋常じゃないんだが、それは謎が散りばめられた展開や不可思議なキャラクターのせいだけじゃない。
                なんでここでその絵が見開き2ページなのかという意図がつかみきれない(やたらと見開き2ページが意味ありげに登場するのだ)表現上の畸形さによる驚きも大きい。
                謎を明かすタイミング、説明を後に回す描写、細かい仕草、その他のすべて、つかみきれないことすらも、それが何かひとつ大きな塊から導き出されている感じ。
                まるで凄く上手い人が、脳を半分殺すよう自制して描いているような危うさにも見える。
                叙述トリックの仕掛けられた世界に放り込まれ進んでいくような戸惑いを持つ漫画、初めて読むな、こんなの。
                それがただのデタラメじゃなくて、ディープなところで、いつか結びつくような予兆とドキドキに充ちているのは、細部の描写への絶妙なこだわり(表紙の少年の襟首の下に穴が開いているのが、すごく好き)のためなのか、読み手の妄想がすぎるためなのか、隠された意図を無意識に読み取ってるためなのか、わからない。得体が知れない。
                ここから収束していく展開になる気もするのだが、というか、そうしないとさすがにカオスすぎる気がするが、なんだか収束なんかさせないぜっていう意志すら感じてしまう。

                本全体のデザインもめちゃカッコイイ。
                いや、もう、ぜひ、こっそり読んでください。
                2010.01.16 Saturday

                松村潔『タロット解釈大事典』を読んでいる

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                  今、もっともあわてないで読んでいる本は松村潔『タロット解釈大事典』で、これはたいへんな労作としか言いようがなく、タロット好きはぜひ読むといいと思います。
                  タロットカードは今ではもっぱら占いに使われており、そのためカードの持つ意味や照応関係が重要視されてしまうわけです。
                  そうなってくると、図案的にもポピュラリティのある大アルカナのカード22枚、そのカードの意味を1枚ずつ単独で知ることが最初のステップとなり、次に欲せれられるのはカードが組み合わされたときにどういう意味を持ち得るか、というステージであると考えるのが自然でしょう。
                  ところが、タロットの本は、単独のカードの意味を説明するものがほとんどで、次のステージに対しては、あるとしても、複数枚の解釈の仕方をいくつかの例として紹介するにとどまります。
                  というのも当然で、たとえば、たった2枚の組み合わせを解説しようとしても、22×21で、いや逆位置を考慮すれば、44×42になり、1848パターンになってしまうわけです。逆位置は無しとしても、462パターンとなり、1パターン1ページで解説すれば、462ページを超える大著とならざるを得ないわけですから、ほぼ無理な話なのであります。ほぼ無理な話なのでありますが、『タロット解釈大事典』は、その2枚の組み合わせ462パターンを1パターン1ページで解説してしまうという無理を押し通したタロット解釈本で、これを労作と言わずなんと言えばよいか。
                  本書の最初についている解説を読むと、逆位置も含めて書こうとしていたけれど、数が多すぎて途中で断念したとあり、なんと無謀な戦車なのでありましょうか。
                  正位置に絞ったとはいえ、462パターンを解説した本書は、当然のことながら462ページを超え、530ページのレンガ本となっており、ぼくは去年の暮れあたりから、机の横に置いて、ちょっとした時間に2ページずつ読み進めているのですが、今ようやく女教皇+星のページ。
                  小説であれば、全22章の物語のようやく第3章の後半に入ろうとしているところなのです。
                  これは、あくまでも推測なのですが、著者は毎日一定のペースで、頭から順番に執筆しているようであります。なぜなら、順に読むことで、その日のコンディションや、興味の移り変わりが、美しいグラデーションを眺めるように伝わってくるからです。もちろんこれは読者であるぼくの妄想である可能性も大いに残されているわけで、本当はカードを引きながら順番はランダムで執筆されたのかもしれないのですが、そういう現実とは関係なしに、多数の痕跡を発見し結びつけられるのは、照応の力であり、それこそが魔術の源でもありましょう。事典でありながら、頭から順番に読むことで、他者の執筆コンディションすらも体験できる読み物にメタモルフォーゼしていくのです。
                  『タロット解釈大事典』を読んでいると、他のカードとの組み合わせによる解釈を読むことで、単独カードの意味内容が多角的に理解できるという利点を実感させられます。
                  この調子でいけば、今年いっぱいかけて読み込む本となりそうですが、ずしりと重い書物に支配されすぎないよう、あいまに桜田ケイ『かんたんタロット』を読むのが一服の清涼剤であるといった濃密なタロット時空に包まれている昨今であります。
                  2010.01.14 Thursday

                  第142回芥川賞候補作、松尾スズキ『老人賭博』、舞城王太郎『ビッチマグネット』他

                  0
                    第142回芥川賞候補作、全部読んだので感想。

                    松尾スズキ『老人賭博』
                    ぐっときた。映画撮影現場の顛末と師弟関係とギャンブルの話。
                    改変されたシナリオの繊細な調整具合とか、美少女アイドルのキャラクター設定とエロさ具合とか、がむしゃらの突破力だけじゃなくて、うちにひめた突破力もあって、すごくいい。

                    舞城王太郎『ビッチマグネット』
                    ミステリ枠じゃないので、突き破る枠が見えないまま突っ走ってる感じで、しかも、描写や行動や物語で押し進めるわけじゃなく理屈が先にきてるから、その理屈に共感できる人は「あるある!」で楽しめる。文体のリズムは、舞城節全開で、すごい。

                    大森兄弟『犬はいつも足元にいて』
                    リーダビリティ高い。
                    屁の扱いが安易なのが最大の欠点か。作家は屁をいつなんどきでもひらせる特権を持ちえるのだから、安易なポイントで登場人物に放屁させてはならない。屁を使うなら覚悟して使っていただきたい(俺誰) 。

                    羽田圭介「ミート・ザ・ビート」
                    “取り組む直前までは得体の知れない難解なものの固まりに思える勉学も、机に向かって一〇分も経てば単純作業に切り替わる”
                    “煮え切らないまま、それでいてきちんと下腹を熱くさせるのであった”
                    “数キロ先まで広がる開発地の建造中の建物一つ一つに目を這わす”
                    “ブラウザを開くと「自動車/譲渡」で検索を行った”
                    といったような文章がOKな人なら読めるよ!

                    藤代泉『ボーダー&レス』
                    さわやかな青春小説としても、大オススメ。→第142回芥川賞候補作、藤代泉『ボーダー&レス』感想
                    2010.01.14 Thursday

                    第142回芥川賞候補作、藤代泉『ボーダー&レス』感想

                    0
                      藤代泉『ボーダー&レス』
                      第142回芥川賞候補作。
                      候補作を全部読んだのだけど、一番好き。良かった。芥川賞、とってほしい。
                      在日コリアンのソンウと、新入社員のりーりん二人の友情物語。エスニシティ(共通の出自・慣習などを持つメンバーの帰属意識)の問題だけじゃなくて、向き合うことの難しさや、先に行けそうにない不安など、いま若い人が抱えている問題(←って紋切り型のフレーズを安易に使っちゃうけど)がひしひしと伝わってくる。それを、突破しようとする気持ちも伝わってくる。

                      「恋愛小説ふいんき語り男性作家編」の8回目で、金城一紀『GO!』について
                      米光 だけど、やっぱりそこはひとまとめにしちゃいけないんだよ。最初に言ったように、オレは、この小説は絶対恋愛小説だって思いたい。だって恋愛ってすごく個々じゃない、韓国人だから嫌い、日本人だから好きってことはありえないはずで、一対一の問題なんだよね。桜井の父は、団塊の世代の代表として出て来るけど、オレらより上の世代の言説として、ひとまとめにしてダメって言ってしまう感覚をもっているひとは多いのかもしれない。それに桜井が、無意識に影響を受けてしまっている。
                      飯田 いや、今の若い世代も先祖帰りしてるよ。2ちゃんで書いてるやつらとか、すごい若いのに差別意識持ってるんだし。
                      米光 でも、彼らが現実に、かわいい異性として在日の女の子に出会ったらどうなのかと。彼らと桜井はいっしょだよ。
                      飯田 ああ、個として出会ってしまえば、ただのボーイミーツガールになる、そこから変わっていく可能性がある。
                      米光 じゃないかなあ。

                      なんて話をしたんだけど、『ボーダー&レス』は、まさに『GO!』の先の、今の物語。

                      デビュー作なので「破綻していてもいいから破天荒なものを!」って期待には応えてくれない。
                      でも、これはこれでデビュー作らしい。すごく真摯。内容が、自分の手元から出発して、遠くへ進もうとしている。
                      くすくす笑えるシーンもあるし、二人のやりとりも楽しい。
                      いくつかジーンとくるところもある。
                      携帯電話の使い方、差別的な問題や、合コンのシーンも、今でしか表現できないことをしっかりと描いている(長嶋有『パラレル』『ジャージの二人』を思い出した)。

                      目をそらさず、ひとつひとつ丁寧に、でも肩の力を入れすぎずに、真剣に書いている。
                      自分が小説を書くということの決意表明にも受け取れる内容。
                      “まったくの白紙から出発するこの明るさは、他に変えがたいものがある”と選評で斉藤美奈子が書いているように、この小説は明るいところが、すごくいい。
                      次にどんな作品を書いてくれるのか、すごく楽しみです。
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