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2008.07.25 Friday

『崖の上のポニョ』を読み解くキーの数々

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    『折り返し点―1997~2008』、『もののけ姫』から『崖の上のポニョ』までの12年間にわたる宮崎駿が書いた(喋った)テキストが満載。『出発点―1979~1996 』の続編。
    おもしろいおもしろい。
    522ページのぶあつい本だけど、いろいろなところから集めた本だから、興味の向いた部分だけつまみ読みできる。

    『崖の上のポニョ』を観るガイドとしても読める(まあ、ガイドなんかいらない純粋に楽しいガンガン動くアニメなのであるが)。

    あちこちから、一部抜粋。

    『崖の上のポニョ』の「企画意図」の文章
    “海に棲むさかなの子ポニョが、人間の宗介と一緒に行きたいと我儘をつらぬき通す物語”
    “魔法が平然と姿を現す世界”
    “海を背景ではなく主要な登場人物としてアニメートする”P488

    ポニョの行動が“我儘をつらぬき通す”と明言されているところが興味深い。

    『崖の上のポニョ』の「映像上の課題」の文章
    “眼球に球面を与えたい。幼児のプリンプリンとはちきれる肉体の感じを出すため”
    “波や水を実線で動かす。勿論色線も使うが、輪郭線は実線で行く”
    “直線をなくしたい。あたたかくも歪んで、魔法が存在し得るし、透視図法の呪いから解放されたい。水平線すら盛り上がり、ひずみ、ゆれ動く世界。”
    “現代の日本をもう一寸住みやすく理想化する。民度をあげることと過密をなくす”P491

    ほんと、波の表現に驚いた。と、同時に、きっと、もっともっとできる、もっともっとやりたいと監督は思ってたんじゃないか(とくに“透視図法の呪いから解放されたい”の部分については)。とこの文章を読んで思ったので、また次を作ってくれる、と想像して、わくわくした。

    『ウォレスとグルミット』の監督ニック・パークとの公開対談で、どうしたらアイディアのインスピレーションを得られるのか?の質問に答えていて。
    “映画というのは、作り終わった途端に「ああ、しまった」ということの累積なんですよね。自分たちの作った映画を観ると、ダメなところばかりが気になってしまって、まともに画面を見られない(笑)。自分の映画をまた見たいとは思わないんです。そうすると、次の映画でも作らない限り、その呪いから逃げられないんですお。本当にそうなんです。次の作品を創らないと、二年も三年も平気で後ろからくっついてきますから。”P387


    『日本経済新聞』のインタビューでCGと手描きということについて答えている部分も興味深い。
    “立体を平面へと移すのは、その人なりの世界のとらえ方、ひいては思想の表現でもある。立体感を追求するCGだけが尊重されるとすれば、多様な思想や考え方を否定することにつながるのではないか。”P455

    ジブリ発表をまにうけて、「すべて手描きだからあたたかみのある世界が〜」なんて映画評が馬鹿っぽく見える理由がよくわかる(じっさいにすべて手描きじゃない)。

    二〇〇五年国際交流基金賞 受賞のスピーチ原稿
    “私達は無名で−名をなさないという意味です−無名でおわってもかまわないと覚悟してこの仕事をして来ました。
    自分達の納得いく仕事を、少しでも実現することこそ願望でした。
    ですから多くのジャンル−歴史、文学、美術、音楽、映画にテレビ、マンガ……ありとあらゆるものの影響を受けながら自由でした。”P396


    「あとがきにかえて」にも、『崖の上のポニョ』に直接つながるだろうと思えるテキストがたくさんある。
    “起承転結とか、「ここは穏やかで、ここが山場で」とか、意識的に構成を考えて、理屈でやってみたこともありましたが、それでは自分自身が面白くないんです。「そんなもの、わざわざ作ることはないだろう」と、もう一人の自分が言います。
    いずれにせよ、毎回できるかぎりの努力をして、なんとかたどりついたところが、これまでに作ってきた映画だと思っていますから、「これ以上、なにをやれというのだ」という、そういう気持ちです。一番の根拠は、「自分はギリギリまでやった」という思いしかない。それを「ダメだ」と言われたら、「そうですか、ダメですか」と言うしかないです。”P519


    “「年寄りは、ちいさな子供を見ていると、幸せな気持ちになれるんだ」ということがよくわかりました。”P521


    “子供が成長してどうなるかといえば、ただのつまらない大人になるだけです。大人になってもたいていは、栄光もなければ、ハッピーエンドもない、悲劇すらあいまいな人生があるだけです。
    だけど、子供はいつも希望です。挫折していく、希望の塊なんです。”P522


    いや、ほんと、もっと、もっと、気になるテキストや、あれこれ考えさせられるテキストがたくさんある本。『崖の上のポニョ』の企画テキスト、音楽イメージを伝えるための詩、演出志望者に語った演出論、『ブラッカムの爆撃機』の企画書、さまざまな人との対談、インタビュー、受賞の言葉(また、これが凄い)、『もののけ姫』の演出を語る、ジブリ美術館で上映された作品の企画書、もりだくさん。オススメです。

    宮崎駿『崖の上のポニョ絵コンテ』オールカラー552ページ。緻密な絵コンテで、すごい。


    『ワイド版 風の谷のナウシカ7巻セット「トルメキア戦役バージョン」』原作コミックス全7巻セット。
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