2007.12.25 Tuesday
非モテ・ブログをドストエフスキーが書いている

が、長いからなーということで、ひとまず短いドストエフスキー作品『地下室の手記』を読んでみた。こちらも新訳。

最初の数ページを読んで、驚いた。
これは、ブログじゃないか。
異性からモテない。
社会からモテない。
これは、ドストエフスキーの書いた非モテのブログだ。
非モテが四十年つづいて、社会にルサンチマンを溜めそれを吐き散らすようなタイプの。
P10から少し引用してみよう。
でも、賄賂は取らなかったんだから、せめてこれぐらいの褒美はもらっても当然だろう(気の抜けた警句だな。でも、これは消さないぞ。うんと気の利いたことを言うつもりでこれを書いたのだが、今こうして見ると、何のことはない、ただ見苦しく機知の才をひけらかそうとしただけじゃないか。だから、わざと消さないでやる!)
この自己言及のループ!
自分の言ったことに自信が持てず、さきまわりして自分で批判して、さらに開き直り、最後に見えない敵にわめき散らす。
遠い親戚が六千ルーブルを遺言で残してくれたから、すぐさま退職して、この穴蔵のごとき部屋に引き籠もったのだ。P14
ひきこもりなのだ彼は!
それはそうと、まっとうな人間が、心から楽しみながら話すことのできる話題とは何か?P14
彼は「まっとうな人間が」といった内容のフレーズを多様する。
「普通は〜です」とか「常識的に言って〜」などという稚拙な反論をする人みたいに。
それはそうと、まっとうな人間が、心から楽しみながら話すことのできる話題とは何か?
答え−それは、己についての話しである。
というわけで、俺も自分自身について話すことにする。P14
そう宣言して、主人公は、こういった調子で82ページまで、えんえんとわめき散らす。
まったく具体的なことは語らず、自意識と理屈と、屈辱の快楽の話を繰り返し語る。
そのこと自体を彼は自分自身で語ったりする。どこまでも自己言及のループ!
この悪臭ぷんぷんたる自分の地下室で、侮辱を受けて笑い物にされ傷ついた我らがネズミは、たちまち冷ややかな毒気に満ちた、しかもいつ果てるとも知れぬ悪意に身を浸すのだ。四十年前立て続けに、自分の受けた屈辱をその最も些細な恥ずべき細部に至るまで一つ一つ思い出しては、しかもそのたびに、自分でわざわざいっそう恥ずかしいディテールを付け加え、自分で作り上げたその虚構で意地悪く己をからかい苛立たせるというわけだ。さすがに自分でも、でっち上げた虚構を恥じることになるのだが、それでもすべてを次から次へと思いだしては、ありそうもないデタラメを、そんなことだって我が身に起きたかもしれないじゃないかと考え出し、そうした屈辱をどれ一つとして赦そうとはしない。それでいて、おそらく復讐を始めるにしても、それはなんとなく中途半端に途切れがちの、みみっちいものであり、しかも自分はぬくぬくとした場所に隠れたまま、匿名でこそこそやるに違いない。P25
匿名宣言!
さらに「釣り」ではない、とさえ彼は宣言する。
おそらくあんた方は、俺が笑いを狙っていると思っているんだろう? ところが、それも間違いさ。俺は、あんたたちが思うような、あるいは思っているかもしれないような、やけに明るい人間とは、およそわけが違う。とは言え、あんた方がこの長ったらしい駄弁にイライラしているとしたら(イライラしているのは、俺も既に感じているさ)、いったいお前は何者なんだ? と、訊ねたいだろう。P14
「自分が何を語るのか」について彼はこう言う。
これから話したいのは、あんた方が聞きたかろうが聞きたくなかろうが、なぜ俺が虫けらにさえもなりそこなったという話だ。P15
とは言うものの、自分に起こった具体的なエピソードを語ることはないのだ、第一部では。
さあ、泣きながら(正直、しょうしょううんざりする)第一部を読み終わると、83ページから具体的なエピソードが綴られる第二部。
さらに非モテな悲劇が語られる。
もう大雑把に超まとめで、いちエピソード書くと、こんな感じだ。
クラスメートが、集まって呑む?ってやりとりしているのを見つけた彼は、おそるおそる参加表明。「えええーおまえも来るの?」と言われ、「いや、おれもクラスメートだし」と答えると、「だって、おまえは俺たちを避けてただろ、いまさらなー」と返される。シモノフくんが「まあ、今回からぜひ参加させてって言ってるんだから、いいんじゃない」と寛大なところを見せるが「でも、内輪の親しい集まりで、おまえには来てほしいとは思ってないんだがなー」とか言われてしまう。
それでも無理に行けば、呑み屋には誰もいない。一番はやくついてしまった……。
待てど来ない。開始時間が一時間遅くなっているって連絡をもらってなかったのだ。
疎外感を味わい、会話もトゲトゲしくなる。
「仲良く呑もうと思って集まったのに、君は張り合ってばかりだね」と言われ、(ああ、これは、俺が付き合うべき仲間じゃない!)と心の中で怒る。(今すぐ、即刻出ていってやる!)だが、彼は居残る。酔っぱらって、いつの間にかひとりでベラベラ話しはじめている。しかも、この場がいかに嫌いかを!
結局、寛大なシモノフくんも「こんな奴をメンバーに入れちまって、ぼくは自分が絶対に赦せない」と唸るように言う。
だれからも話しかけられなくなる。といっても帰るのもしゃくだから隅っこでじっと居座って「だれか話しかけてこいよ!」と思ってる。
が、もちろん誰も話しかけてくれはしない。さらに二次会にもついていくが金がない。貸してくれとお願いするが「いいかげんにしろよ」と露骨に嫌がられる。
二次会は、おんなのこがいる店だ。おんなのこに説教を始める。いい感じだ。ナイスな感じ。おんなのこが耐えかねたように言う。「あなたの話って、みーんなブログやら本からの受け売りね……」
さあ、泣きながら読もう。
■「この本がスゴい2007:わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」で、

■「トヨザキ社長が選ぶこの本くらい読みなさいよ!」で、

- コメント
- うわー!ドストエフスキーすげー!
遺産がある所&二次会代を払わない所の二点「以外」は、ぶっちゃけ物凄く親近感を抱きました!(爆) 泣きたい…
もんのすごく読みたいです!でも怖くて読めない!でも読みたい!
良いご本のご紹介、有難うございます。 -
- ★さとこ
- 2007.12.25 Tuesday 18:42
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