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2007.11.15 Thursday

ケータイ小説の新しさと古くささ

0
    『恋空』に代表されるケータイ小説が“紛れもなく文学のニューウェーヴなのだ”という主張に対して、えええー昔から同じ内容のものたくさんあったよー、というリアクションをした。その後に、以下のような異論が再度提示された。
    “ それよりも実際ケータイ小説を読んでみて衝撃的なのは、人をして「読むに耐えない」と言わせるまでの、ケータイ小説におけるある種奇妙な文体ではないかと思う。

     よく言われる、「携帯電話の画面で読むのに丁度いい」とかいう理由だけでは、書籍版があれだけ売れる説明にはならない。あれはなにかもっと別の、文章の認識能力や文章の構築能力に変化が起こっているんじゃないかと思う。

     携帯メールやmixiなどで短文暗号的な文章に特化した、位の考察しかできない。だれかこの辺掘ってくれる人いないかなあ。”

    まず、書籍版と携帯版のテキストが異なってることを指摘しておこう。
    携帯版のテキストを書籍にして販売するときに、テキストが修正されている。
    たとえば、『恋愛小説ふいんき語り』でも指摘している半角問題。
    “米光 ケータイで配信されたバージョンを見ると、主人公のヒロと美嘉、あとは優だけが全角表記で、ヒロの親友のノゾムとか美嘉の友だちのアヤとか、ほかの登場人物は、ほとんど全員半角カタカナ表記。(『恋愛小説ふいんき語り』P330)”

    だが、書籍版は、すべて全角になおされている。

    また短い文は、書籍版では、つないで読みやすい長さに改変されている。
    というわけで、
    少なくとも書籍版に関しては「携帯電話の画面で読むのに丁度いい」テキストですらなくなっている。

    だから“携帯メールやmixiなどで短文暗号的な文章に特化した、位の考察”は、少なくとも書籍版では、考察されない。

    だいたい元の文章も、「短文暗号的な文章」ではない。
    そもそも、そーとー古くさい紋切り型の文章が頻出する。
    たとえば、あなたが小説を書いているとしよう。
    シンナーを吸ってぽわわーんってなってる男の台詞を考えなきゃならなくなった。
    どういう台詞にするだろうか?

    【1分間シンキングタイム!】


    さて、『恋空』にシンナーを吸ってるシーンがある。
    “米光 シンナーを吸ったヒロが「蝶々がいる〜蝶々〜」て錯乱してるのはびっくりした。蝶々〜って、こんなに古典的なラリった台詞は今時貴重。(『恋愛小説ふいんき語り』P326)”

    『恋空』って、そんなんなのだよ。
    古い、懐かしい、昔のヤンキー少女の小説なんだよ。
    読めば、意味は簡単にわかる。稚拙な文章ではあるが、暗号的な部分はほとんどない。
    がんばって探すとすれば、これまた『恋愛小説ふいんき語り』でも指摘した以下の部分ぐらい。
    “「人の彼氏、誘惑するんじゃねーよ! ってか人の彼氏に惚れんな!」悲鳴に近い声で発狂するアヤ。”

    えええ、これぐらいのことで発狂するの? と思ったが、実は、「はてなキーワード」によると発狂というのは“大げさな表現として、「気が狂うほど」怒ったり、精神的に追い詰められたりすること。”なんだそうだ。
    そういう若者ジャーゴンっぽいのは、ちょっとだけ、ある。

    「短文」については、これは、もー昔の少女小説のお家芸。
    そもそも、「いちご文庫」ブームのときの作品の特徴が、短文で改行しまくる、というものだった。
    「下半分がメモに使える!」と揶揄されるほどだ。
    たとえば1992年発行、小泉まりえ『同じ人を好きなんて!』(講談社X文庫)
    書き出しの部分を引用してみよう。
    “ねえ。
     友達にふたごの人いる?
     あたし。
     立原真帆。
     15歳。
     目黒にある女子校の。
     1年生。

     家族構成は。
     ママとパパ。
     妹の奈美。
     そして。
     あたし。
     以上4人。” 

     いや、本当に文庫本の下半分は、まっしろである。
     最初だから、ことさら改行が多いのではない。この調子で、えんえんと続くのだ。
     ティーンたちが快適に読めるスピード。
     そして、少女たちのせつない気持ちを表現するため。
     キュン。
     となってる女の子は。
     胸で。
     小さく呼吸するの。
     って、演出なのである。(『L文学完全読本』の米光担当「コバルトは変わる。女のコは変わる。」を参照のこと)

    これにくらべれば、『恋空』は、ふつーの文の長さ。

    前のエントリーでも書いたわけだが。
    「文体」も含めて、なつかしさすら感じる、むかーーしからあるものだ。ということなのだ。

     読み比べれば簡単にわかると思うが、“文章の認識能力や文章の構築能力に変化”なんてのは、煽りたがる年配の素敵なファンタジーだろう。

    とはいえ、むかしからあるから、つまらないって言ってるわけじゃない。
    めんめんと、こういうジャンルは人気があり、需要がある。
    一部の少女たちは、いつだって熱中して読んでる、ってこと。
    ようやく気づいた大人が(っつか気づいてすらないが、ブームになってるから何か言っておくかって大人が)、新しいとか、小説じゃないとか、なんだか、年寄りじみた反応をしているだけだろう。
    読んでる少女たちは、そうそう! 泣けたー! と、ただただ小説の面白さを満喫しているだけだ。

    ひとつ「新しい」ポイントがある、とムリヤリ言ってみよう。あるとすれば、最初の発表時に「編集者的視点が入ってない」ということだろう。
    コバルトやいちご文庫の時代には、編集者や校正という「社会的な大人」のチェックが入って、修正を要請され、それを経たテキストが発表された。
    『恋空』は、ケータイ版では、そのような編集者的視点が入ってない状態で発表された。そこには、新しい何かが、あるかもしれない(と、同時に、まぁ、大人が読むに耐えるような社会性はハナから期待できない)。
    少女が書いた文章が、大人の修正を経ずに、発表されている。というのは、とてもおもしろい。そして、それが少女たちに支持されている。

    コバルトに代表される少女小説も、小説ジュニア時代は、おやじくさい小説が多かった。書いているのも大人だったのだ。
    「大人が少女に向けて書く→大人が修正する→少女に届く」という構図だったのだ。
    それが、氷室冴子をきっかけにして、少女が作家になっていった。
    そして、「少女が書く→大人が修正する→少女に届く」という構図に変わっていく。
    ケータイ小説は、とうとう「少女が書く→少女に届く」という構図にまで変化した。
    大人がじょじょに排除された世界なのだ。
    だから、大人が純粋に恋愛小説として読んだとき『恋空』がおもしろくなくても、当然だ。
    「いやぁ、私も大人になったものだよなぁ」と思えばよろしい。
    その後に「若い感性が喪われた」と思うか、「社会性が身についた」と思うか、それは、まぁそれぞれ、いろいろ考えるべな。

    って、『恋空』も含めて恋愛小説20冊について、考え、笑い、泣き、討論した『恋愛小説ふいんき語り』、発売になりました、よろしく。

    ■「いちご文庫」の短文&改行の多様については、実作者である花井愛子が、『ときめきイチゴ時代―ティーンズハートの1987‐1997』で詳しく語っている。例にあげた作品の著者「小泉まりえ」も、花井愛子のまた別のペンネーム。(追記:“「小泉まりえ」も、花井愛子のまた別のペンネーム”の部分は、勘違いでした。花井愛子、神戸あやか、浦根絵夢の三つのペンネームを使い分けていたのでした)



    大本泉『名作の食卓 文学に見る食文化』に、“坊っちゃんはなぜ「天麩羅蕎麦」を食べたのか”という項がある。天麩羅蕎麦を食うシーンを軸に“土地の者と融合しようとするのではなく、最初から差異化をはかり自己本位の優越感に浸っている”坊っちゃんを考察。

    『ユリイカ 2007年11月臨時増刊号 総特集=荒木飛呂彦〜鋼鉄の魂は走りつづける』、写真満載で「ジョジョ立ち」ヒストリーが載ってるのが楽しい。

    『計算DSトレーニング』が藤原和博監修ということを知り興味を持つ。「らくだメソッド」の計算学習ソフト。

    恋愛小説ふいんき語り、大人力祭り!12月14日!
    コメント
    「小泉まりえ」は花井愛子とは別人です。『ときめきイチゴ時代』を本当にお読みになったのでしょうか?
    • taba
    • 2008.01.21 Monday 22:54
    間違えていました。ごめんなさい。
    花井愛子、神戸あやか、浦根絵夢の三つのペンネームを使い分けていたのでした。
    御指摘ありがとうございます。

    『ときめきイチゴ時代』、読みましたよ。おもしろかったです。
    • 米光
    • 2008.01.22 Tuesday 01:01
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