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2010.02.28 Sunday

レイ・カーツワイル『ポスト・ヒューマン誕生』の凄い未来予測

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    レイ・カーツワイル『ポスト・ヒューマン誕生』
    「GNR革命(遺伝学・ナノテクノロジー・ロボット工学)で社会が大きく変わる」「特異点(シンギュラリティ)で進歩が加速する」の2つを軸に未来を予測する本。
    麻野一哉さんのレビューを引用すると
    “GNRの発達により、プログラム可能な血液ができる。それは体内を自律的に巡るので、心臓は不要になる。肺も同様。というか、酸素を取り込む効率がよくなるので、15分くらいは息つぎが不要になる。酸素ボンベなしで海底を散歩できるのだ。すい臓はシールのようになるから臓器の形をとらなくていい。大抵の臓器が不要になる。骨格は必要だがもっと強い素材に置き換えられる。皮膚はセックスしたいので、おいておく。老化部位は若返らせる。原理的には人類は不老不死になる。”
    さらには、人類バージョン2.0やら人類バージョン3.0の姿も示される。

    脳のアップロードなんていう『マックス・ヘッドルーム』的未来、さらには脳をより強力にする「脳のポーティング」(“2030年の終わりには現実のものとなってるだろう”!)、しまいには、非生物的経験へ移行、意のままに体を作ったり変えたり、ヴァーチャル・リアリティのさまざまな世界を舞台とするヴァーチャルな体、ホログラフィで投影された体、フォグレットが作り出す体、ナノボットの大群やその他のナノテクノロジーの形態で組織された物理的な体(←これ、かっこいい)、いくつものコンピューティング基板に転々と移り住み、どの思考媒体より長生きするその人は、本当にわたしなのだろうか。うはー引用するために読み返してると、また興奮してきて、断片的に抜き書きしてしまった。以上、P420あたり。

    「わたしは特異点論者だ」の章(特異点論者にはシンギュラリタリアンのルビがふられている。シンギュラリタンのほうがかわいいのに)の特異点論者宣言的なテキストは、勇ましい。
    “臨界点(ティッピングポント)にさしかかっている今世紀中に、自己複製能力をもつ非生物的な知能をとおして、太陽系全体にわれわれの知能を拡散させる準備が整うだろう。そして、それは太陽系以外の宇宙へも広がっていくだろう。”
    “「橋を足場にして橋を架け、さらにそれを土台として橋を渡す」(今日の知識をバイオテクノロジーへの架け橋とし、次にそのバイオテクノロジーの知識をナノテク時代への架け橋にする)方式により、寿命を劇的に伸ばすことだ。これにより、劇的な延命に必要な全知識はまだ揃ってないにもかかわらず、無限に生きる道が今開かれることになる。言い換えれば、今日全ての問題を解決しなくてもよいのだ。”
    “解決できない主要な問題は、われわれがはっきりと表現できないもの、そしてたいていは、気づきもしてないものだ。したがって、問題と遭遇したときに重要となるのは、まずそれを言葉(ときには方程式)で正確に表現することだ。それさえできれば、問題に立ち向かい、解決するアイデアを見つけられる”などなど。
    楽天的でB級な、でも破天荒でついつい夢中になってしまうSF小説を読んでいる気分になってくる。“今日地球上の全ての人間の脳を合わせたものよりも、一兆×一兆×一兆×一兆×一兆倍も強力だろう”(P591)って子供の喧嘩みたいになってるよ!

    600ページ超えの『ポスト・ヒューマン誕生』を92ページに軽くまとめた本が『レイ・カーツワイル 加速するテクノロジー』。いかがわしいほどの面白さは失しなわれているが、まあ、どんなことを言ってるのか手っ取り早く知りたい人向け。もしくは『ポスト・ヒューマン誕生』を読んでぼーっとしちゃった後に読む感じか。
    “人類が石の道具や火、車輪などの技術を生みだすまでは、さらに数万年を要しただけです。16世紀に誕生した印刷技術は普及するのには百年ほどしかかかりませんでしたし、現代の携帯電話やミュージックプレイヤーは数年単位で普及しています”P14
    “かつてのコンピュータは、大きな会議室ほどの大きさがありましたが、今ではわたしたちのポケットに入ります。それが衣服のなかに組みこまれるのは、もうすぐのことです。そして、より小さくなり、パワーを増したコンピュータは、次にわたしたちの体内に入ってきます”P49
    “人間はみな非常に似た構造の脳をもっていて、すべての人類における遺伝学的な多様性は、ヒヒの一群の多様性よりも少ないのです”P58
    “2020年には1台のコンピュータがひとりの人間の知性を凌駕する。そして、2045年には人間の知能の10億倍の能力をもった人口知能が登場し、人類とテクノロジーの関係が「特異点(人間の能力が根底から覆り変容するとき)」に達するという”P64

    あとがきにカーツワイル氏の未来予測が「フォワード・キャスティング法」だという指摘があり、未来予測には「フォワード・キャスティング法」「バックワード・キャスティング法」があることが紹介される。

    技術の状況や歴史を分析し、積み重ねるように未来を予測する方法が「フォワード・キャスティング法」。
    フォワード・キャスティング法は、大きな構造変化が生じないことが前提の予測方法。もし大きな構造変化が生じると予測と食い違ってしまう。
    あとがきでは何故か、カーツワイル氏の未来予測が古典的な「フォワード・キャスティング法」だと書かれてあるのだが、古典的かなー。「特異点」という概念は「大きな構造変化」とほぼ同じで、「特異点」を設定したおかげで、実はどんな予測だって可能になってしまっている。急激に未来の可能性が開かれちゃうので、まったく恣意的にチョイスできる。これって巧妙にフォワード・キャスティング法のルールをちょっとだけ逸脱している。だから、カーツワイルは荒唐無稽な未来像を示せるのだ。
    もうひとつの「バックワード・キャスティング法」は、将来の社会を想定して、そこから逆に我々は何をするべきかを推測していく方法。
    つまり、この二つの方法だと、未来予測はどちらにせよ、予測というよりも、希望的観測なのだけど、まあ、そもそも未来予測ってそんなもんだろうな。
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