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2009.12.18 Friday

Final Dragon Library World1:ぼくは勇者に向いてない『孤島の鬼』編

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    タイトル『Final Dragon Library(ファイナル・ドラゴン・ライブラリ)』
    1792字(=28字×39行+28字×25行)61行

    掲載誌:「WB(早稲田文学)」(早稲田文学で、PDF版が読めます。ナカシマカズユキによるカードイラスト、かっこいいぜ)

    World1:ぼくは勇者に向いてない『孤島の鬼』編

    「助かりたいのなら、これを読みなさい」
     白い手が伸びてきて、本を手渡された。どういうことだ?
     手の主は、少女だ。白い服を着ていて、その服よりも肌が白い。図書館の大きな窓からさし込んでくる光のせいで透明になりそうなほどの白い喉。
     少女は棚の向こう側に立ち去る。本を探しにきたわけじゃない。少女から手渡された本を棚にもどす。少女はもういない。ドキドキしていることに気づく。興奮している? いや、ちがう。胸が痛くなる。

     気をそがれたので家に帰る。そして驚く。ぼくのトートバッグの中に本が入っている。
     江戸川乱歩著『孤島の鬼』(創元推理文庫)
     なんてことだ。彼女が、ぼくのバッグにこっそり入れたんだろうか? これじゃ万引きだ。
     本を開いてみた。助かりたいのなら、という声がよみがえってきた。奇妙なカードがはさまっている。

     江戸川乱歩。小学校の図書館で読んだことがある。少年探偵団、怪人二十面相、おもしろかったけどバカバカしいのもあった。
     でも、これは違った。少年探偵団がこども向けに書かれているとすれば、『孤島の鬼』は大人向けだ。

     箕浦金之助という男が語り手。恋人の木崎初代が殺される。密室殺人である。第二の殺人は、海水浴のビーチ。数百の群衆の中で、こどもと遊んでいた探偵が殺されてしまう。
     ところが、この不可能犯罪の謎は、すぐに解明されてしまう。半分も読んでないのに、あっと驚く真相がわかってしまうのだ。残りはどうするんだろう? 

     ドキドキしながら読んでいたけど、冷静な自分も頭の別のところにいて、小説を楽しんでいるのだと分析していた。でも、その後の奇怪な手記! ここでやられてしまった。
     小説を読んでいるぼくは消えて、描かれている世界とひとつになった。そんな体験は初めてだった。

    “わたしは考えることができるようになってから、ずっと、何かしばりつけられているような、思うようにならない気持ちばかりしていました”

     隠された真実があきらかになってくるにしたがって、ぼくは戦慄した。こんな本があって、いいのか。具体的には書けない。全体をまるごと読んでもらわないと誤解されそうだから。とても罪深い世界だから。

     かたわ者という言葉が何度も出てくる。使ってはいけないと言われている言葉だ。差別用語だ。いや、描かれているものは、もっともっとグロテスクな世界。ゲームだったらすぐに発売禁止。いま、ここに書くこともためらわれる。こんな世界が、活字になって、ものすごい数の本になって、図書館や本屋に置いてある。世界が、わっと拡がった気がした。世界というものをぼくはとても狭く想像していたことに気がついた。

     推理小説のワクをはみだし、宝探し冒険モノになり、恐怖譚にも、ラブストーリーにも、世にも恐ろしい人間憎悪の物語にもなる。洞窟に閉じ込められるシーンを読みながら、ぼくは息苦しさを共有すると同時に、世界が開けて、ものすごく広い草原に立っているような感じも受け取っていた。

     ページに黒いシミができた。わっ、なんだ。血だ。鼻血だ。ぼくは物語に興奮して鼻血を出してしまったのだ。胸が痛くなる。
     黒いシミが大きく広がり、それは本のページからはみ出した。どういうことだ? 椅子から転げ落ちる。黒いカヴァーの文庫本を落としてしまう。
     シミは巨大化し、大きな穴になる。ひょいとその穴から出てきたのは、図書館で出会った透明な少女だった。
    「ど、どういうこと!?」
    「冒険に出るのよ」
    すっと伸びた白い腕がぼくをつかまえ、引っぱり込まれた。穴に! 
                            To be continued.

    続きは現在配布中の「WB(早稲田文学)」Vol.18で。
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