2010.07.05 Monday

「ザ・プラクティス」DVD-BOXが出る

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    ドラマの脚本家で好きな人をあげろと言われれば即座に、山田太一とデビット・E・ケリーをあげる。
    デビット・E・ケリーのヒット作は『アリーmyラブ』だろうが、それよりもぼくが偏愛するのは「ピケット・フェンス」と「ザ・プラクティス」。
    その『ザ・プラクティス』のDVD-BOXがようやく発売される。
    デビット・E・ケリーは元弁護士で、弁護士が主人公のドラマが多い。デビューも、名作ドラマ「L.A.ロー 七人の弁護士」の脚本だ。
    「アリーmyラブ」はコミカルな弁護士モノだが、『ザ・プラクティス』はそうとうシリアスでヘヴィな本格法廷モノ。後味の悪いドンデン返しや、社会的な問題も多く登場する。弁護士の倫理感やアメリカ国家の倫理感を問うエピソードも多い。と、同時にコミカルな部分も、全体のトーンがシリアスなだけあって強烈。
    オススメです。
    2010.02.02 Tuesday

    『崖の上のポニョ』を分かりたいという奇妙な欲望

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      『崖の上のポニョ』は、そのまま素直に見るのが楽しい。アニメーションなんだから「わーっ動いている!」って感じで、理屈を添えないで身を任せて。まあ、最初のシーンで「ぐあーたくさん動くぅぅ!」って泣いてるヤツの戯言だがな。はははー、だ。
      ってつぶやいたことに関する補足。


      「途中から死後の世界だ」「夢だ」とか、そういう解釈は、呑み屋で、さんざん聞いた。あと「子供の教育に良くない」とかさ。もう10人以上から聞いた。
      そんな陳腐な解説は飽きた。
      『崖の上のポニョ』の話だ。
      テレビで放映するらしいから、同じことが繰り返されると退屈になるので、書いとくよ。

      そもそも、アニメーションは全て夢だし、死後の世界なの。
      自由に物語れば物語るほど、それは公のものではなく個のものになる。
      公というのは共通項で、自由からほど遠い。
      自由でありたいと望んでも、それだと伝わらない。だから、公の文法にあわせる。
      あわせるつもりがなくても、公に生きる部分の自分がでしゃばってくる。
      そうすると、わかりやすい共有されたルールに縛られた展開になる。
      どんどん公に近づくことで、最後は、みんな納得、ありがたい教訓の物語になるわけだ。

      アニメーションの本質は「絵が動く」ということだ。絵が動く快楽。それは、本当は物語から遠い。
      物語というのは因果を紡ぐことだから、自由ではいられない。自由に展開すれば、デタラメで、破綻していて、分からないものになる。
      物語の快楽というものもあるので、アニメーションは「動く快楽」に「物語の快楽」を付け加えた。
      「アニメーションは子供が観るもの」という先入観のために、わかりやすい教訓話の物語が量産される。公の軸に針が振れる。
      もちろん、今ではアニメーションも多様化し、そうではない物語もいくつかある。

      ということを前提に。

      宮崎駿ぐらいになると、成功したこともあるし、圧倒的なアニメーション(絵が動くという喜び)の力を持っているので、わかりやすい物語の快楽におもねる必要はない。
      個を描くことができる。
      世俗に併せたストーリーテリングなど必要ない。動きの快楽を追求するためには、それは不要どころか、邪魔にすらなる。
      動きの快楽だけを追求すればいい。
      だから、宮崎駿作品の物語は、個の追求に向かう。そして「動きの喜び」という担保(というのは言葉が悪いか)があるために、それを純粋に遂行できる。
      公のわかりやすい物語展開から逃れて、個の物語を、そのまま表現しようとすれば、それは社会的なルールや公のルールから逃れた夢に近くなる。死後の世界に近くなる。
      だから、夢だといったり死語の世界だという指摘は、解釈ではない。
      個の自由さが表現された、そのなかに身勝手に都合の良いルールを見いだして分かった分かったと言ってるにすぎない。
      物語で「夢落ちはダメ」と言われるのは、いくらでも勝手な展開ができるからだ。
      だから夢だとか死語の世界だとか言って勝手に解釈するのって(ポニョに限らず)、よっぽど新しい発見がないかぎりつまらないので、やめといてよ。

      おもしろい解釈は楽しいけど、「分かりたい」という欲望に従属して、たくさんの豊かなものを削り落とす陳腐な理屈は、つまらないと思う。
      2009.06.08 Monday

      『USB』観た

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        奥秀太郎監督『USB』(公式)観た。都市伝説的な日常をオフビートに描いた不思議なテイストの映画。
        無菌状態の中に一本だけ立つ桜、一回二百万円の治療実験アルバイト、低濃度放射能警報の発令、町中にある侵入禁止地区、予備校内でのドラッグ販売、町を抜け出すための船……。
        『妊娠小説』的な展開もあって、けっこうレトロな感じすらする紋切り型な描写も多い。けど、逆にそういう10年前の閉塞感が、気分としては今の情景の中でも続いているアンバランスについて、考えてしまった。
        小泉義之『生殖の哲学』が描く怪物待望論のような情景を、情緒として呼び込むための、新しい「ノストラダムスの大予言」が必要とされてるのかなあ。

        ドラッグ販売するし、人殺すし、しかも表情変えずに。っていう冷酷な男26歳。なのに、母親と実家ぐらし。でもマザコンでもないし、自虐的でもないし、特別でもない。とても普通な母と子の感じに描かれている。そこが、ものすごく映画全体を覆っているのが、すげぇ。
        2009.05.28 Thursday

        ミヒャエル・ハネケが『白いリボン』でパルムドール

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          アクセス解析をみるとミヒャエル・ハネケで検索してきてる人が急増、はて、新作発表でもあったかなと思ったら、「Das Weisse Band(『白いリボン』)」で第62回カンヌ国際映画祭パルムドール! すげえ。
          なぜかハケネって言い間違えてしまうがハネケだよ。
          2001年『ピアニスト』が審査員特別グランプリ、05年『隠された記憶』で監督賞、そしてパルムドール! すげえ。
          『ファニーゲーム』とセルフリメイクの『ファニーゲームU.S.A. 』のDVDが6月26日に発売。だが、しかし、観るなら覚悟して観よ。

          以前書いた『ピアニスト』と『ファニーゲーム』の感想→ミヒャエル・ハネケ映画祭「ピアニスト」
          2009.05.17 Sunday

          「オタクVS信者」としての『ダ・ヴィンチ・コード』

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            映画ロン・ハワード監督『ダ・ヴィンチ・コード』を観た。

            原作は、あっという間にあの長さを読んでしまう娯楽大作として楽しい楽しい(ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版』)がちょと欲しい)が、
            ラストの盛り上がりが地味だし、トンデモ蘊蓄部分は活字だよなーと思ってたので、映像で観ることもねぇかと思い観てなかったのだけど、なんか、主人公のおっちゃんが、講演会やってるシーンのプレゼンが素敵だったので、ついつい観てしまった。

            で。
            映画『ダ・ヴィンチ・コード』は「オタクVS信者」の話として観ると、すっごくおもしろい!
            ツッコミどころ満載だって言われる作品だけど、「オタクVS信者」という視点で観れば、すべて腑に落ちる

            「胸刻んで五芒星描いて、ウィトルウィウス的人体図を模して、暗号作ってから、死ぬって、そんなめんどうなダイイング・メッセージしねぇよッ」ってのが代表的なツッコミだろうが、オタク最後の作品づくりだと思えば、あるある!
            死ぬ間際に、自分のオタク知識を総動員して、しかも育てた娘に向けて作品をつくるのだから、できるだけ凝ったモノにしなくちゃならない。
            オタク知識を受け継いでほしいという意味もあるから、なるべく迂遠である必要もある。娘にいろいろ学んでもらわなきゃならないからな、オタク知識を! なので、ああなったのだ。
            オタクなら、ああするでしょ。俺だって、あの状況なら、すっごい謎とヒントを残してゲーム作家生命を(まさに!)賭けてライブゲームを仕掛けたいと思うもん。

            聖杯の探求に生涯をかけたイギリスの宗教史学者のリー・ティービングも、オタク・チーム。
            「指名手配の人間をかくまうことになって、これ以上迷惑はかけられない」とロバート・ラングドン教授に言われて、「何を言うか。いままでは私は過去の歴史を調べていた。それを今夜、君達が、その歴史へとわたしを招待してくれたのだ」という意味のセリフを(もう記憶によって改変しちゃってるけど)言うところなど、オタクが夢を実現したシーンとして秀逸。
            プリキュアファンのところにプリキュアがやってきて、キュアローズガーデンに連れてってくれたような状況ですから。ディーン・パリソット監督『ギャラクシー・クエスト』的状況ですよ。

            そして、ラストの「あ、あの人が悪者!」的シーンも、オタクの執念の深さがいかに凄まじいかを示すシーンであり、捕まったにも関わらず、あることに気づくと高らかに笑っているシーンは、オタクなら捕まって社会性を失っても、オタク的対象が成就すると思うだけで幸せになれるという強烈なメッセージだ。
            その点、信仰は、信仰に殉ずる死を選ぶので、対決になると、かっこよく死んでしまって、争奪戦においては勝利できないという弱点を持つことが示される。

            ラストシーン。
            映像的には、何も起こらず主人公の頭の中の出来事で肩すかしなシーンだが、傍から見ると地味であろうとも脳内では妄想が炸裂しているオタクの至福の瞬間を描いていると観れば、しみじみと感動的である。
            しかも、オタクは、すごい発見をしても、社会性がないので、世間的には何にも変わらない(特に暗号マニア娘などすっごい社会的変化があってもいい状況なのに、オタクグループに参入しましたってだけで終わってしまう!)っていうしみじみ感も表現されている。
            この「オタクVS信者」に社会的勝利者はいないのである。だが、殉死とオタク的満足によって、個的信条の勝利者はいっぱいだ。

            オタク万歳映画として、絶賛しておく。
            2009.04.30 Thursday

            フェイド TO ブラックとイレイザーヘッド

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              ■「深夜、テレビでやってたら絶対見るべき」的な心の名作と思っているヴァーノン・ジンマーマン監督『フェイド TO ブラック』がエンタメ・プライスとかで 1,920円。
              映画の主人公になりきって、自分をバカにした人間を殺すぼんくらな青年が主人公の、映画愛あふれる青春スリラー。愛。

              ■大昔、深夜に観た映画。山荘にこもって作品を発表しなくなったピアニストのところに、(採譜するため?)学生がやってきて、奇妙な共同生活が……。
              もう一度観たい。けど、タイトル不明。あれなんじゃないかとか、わかる人がいたら教えてください。

              デイヴィッド・リンチ監督『イレイザーヘッド デジタル・リマスター版』。ひな鳥のような姿をした異様な赤ん坊の映画。
              かつて映画館で観たが、いくつかのシーンが脳に焼きついて離れない。が、展開はまったく憶えていない。退廃的というより、何かの観てはいけなかった裏側を観たという印象が残っている。
              “本作の奇形の赤ん坊があまりに不気味でリアルなので、「牛か羊の胎児を撮影に使った」「いや、デヴィッド・リンチが精巧に作り上げたミニチュアだ」等の議論を呼んだ。リンチ自身は、インタビューでこの事を聞かれてもネタを明かさず、いかなる質問にも肯定も否定もせず、ただ沈黙を保ち続けているため、真相は不明である。ちなみに撮影中この赤ん坊は、スヌーピーの兄から名前を取り、スパイクという名前で呼ばれていた、そのためファンの間でもスパイクと呼ばれている。”(イレイザーヘッド:Wikipedia)
              ああ、きーきーという泣き声を思い出した。
              特典映像のリンチ本人による解説が観たい。
              『デイヴィッド・リンチ・ワールド DVD-BOX』
              2009.03.13 Friday

              岩井俊二監督『花とアリス』の鈴木杏と蒼井優に

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                ■「花とアリス」
                落語、バレエ、贋記憶喪失、海岸とトランプ、文化祭、ああ。ああ。実写なのに。少女漫画。岩井俊二監督の『花とアリス』
                はな(鈴木杏)とアリス(蒼井優)。

                ある鋭敏なタイプの少女が岩井俊二作品を拒絶する、が年齢を重ねると嫌いだった部分も含めて好きになる。というのはありえる話だということを考えた。
                少女が他者からどう見られると考えるか、というところで。と思うと、はなの母が記憶喪失少年と出交すシーンは、ただの可笑しいシーンではない。

                後半の鈴木杏の見せ場と、後半の蒼井優の見せ場で、泣く泣く。あと蒼井優の「ごめんなさい」のあのシーン、あれやられてメロメロにならない男子はいないんじゃないか。ああ。

                もしくは岩井版『ビューティフル・ドリーマー』か。
                また観よ。

                ■ハンディークリーナー
                パソコン周りの掃除用にと探していると、『TWINBIRD コードレスハンディークリーナー サットリーナミニ HC-4321B』を見つけて、おお今、ハンディクリーナーって安いなっていろいろ見る。
                『SANYO ハンディクリーナー』とかあれこれ。
                『FUKAI 充電式ウェット&ドライハンディークリーナー FC-800』を見つけ、あ、ウェット&ドライってのは、飲み物とかこぼしたときに吸えるんだってことに気づく。それは便利だ。同シリーズで、安くて軽い『FUKAI 充電式ウエット&ドライハンディクリーナー FC-700』を購入しようと思っているけど、どうなんだろう。

                ■気になるの
                大平健『食の精神病理』
                “知らない人から食事に誘われても警戒しない若い女性、上司の「一杯行こうか」の誘いを平気で断る部下―それが当たり前になったと同時期に、拒食症も過食症も激減した。わたしたちの「食」にいったい何が起こったのか?
                精神科医として長年「食」を観察してきた著者が、絵本をテキストに、食の世界の不思議から人間の精神病理、人間関係へと洞察をひろげていく。
                わたしたちの「食」は、「身体の自分」と「本当の自分」、ふたりの自分の葛藤だった。”
                おもしろそう!

                拒食症で思い出すのは、フィギュアスケートをやる少女が拒食症に襲われる加賀乙彦『スケーターワルツ』

                ■きのう
                貫禄の講談社社屋で、鼎談。
                2008.12.21 Sunday

                「大丈夫であるように−Cocco 終らない旅−」を観た

                0
                  是枝裕和監督「大丈夫であるように−Cocco 終らない旅−」を観る。
                  歌う、理由に。聖女のように、たくさんのものを背負いこむ彼女に。「大丈夫であるように」というタイトルが、すべてに降り注ぐようなドキュメンタリー。
                  Coccoが何度も泣くので、こちらも泣いてしまう。
                  作ったばかりの歌「鳥の歌」をステージで歌い何度も歌っている中で曲が変わってくる様子と、ファンレターを焼く姿と、幸せそうに歌うシーンが印象に残る。

                  『大丈夫であるように。―Cocco終らない旅』
                  『Cocco「きらきら Live Tour 2007/2008 ~Final at 日本武道館 2Days~」』

                  是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』が01/23にDVD化。(是枝裕和監督「歩いても歩いても」感想
                  2008.08.22 Friday

                  大山くまお「メジャー映画評論家のいた時代」がおもしろい

                  0
                    「週刊ビジスタニュース」大山くまお「メジャー映画評論家のいた時代」がおもしろかった。
                    “『月曜ロードショー』の荻昌弘、『水曜ロードショー』の水野晴郎、『木曜洋画劇場』の河野基比古、『ゴールデン洋画劇場』の高島忠夫、『日曜洋画劇場』の淀川長治”らは、ゴールデンタイムに毎週MCを務めているというメジャーさを持ち、“高島忠夫を除けば全員が本職の映画評論家”であった。つまり「メジャー評論家」がいた時代があったが、今ではいなくなってしまい、映画がマニアックな趣味(町山智浩!)になったことを指摘する。
                    明快で、具体的で、新しい切り口の文章で、とてもおもしろく読んだ。
                    ぼくは、淀川長治の文章が好きで、映画紹介を読んで観てみたら、そんなシーンなかった!って体験もあるが、そういうところも好き(映画本編より淀川さんが妄想で作ってしまったシーンのほうがぴったりする感じを受けることもあった)。雑誌『広告批評』でやっていた歌舞伎の紹介のとか本になってないのかな。

                    「週刊ビジスタニュース」は、ちゃんとこういう新しい書き手の人を見つけていて、すごいなーと思うし、楽しい。

                    上記で紹介した原稿、いまはこちらで読める→大山くまお「メジャー映画評論家のいた時代」
                    2008.08.18 Monday

                    『ダークナイト』と『宇宙人東京に現る』と『ダークマン』と鉄腕アトムと

                    0
                      『ダークナイト』観た。いやー、すごかった。
                      最初の15分の猛スピード、細かいドンデン、刺激満載、怖い怖い、で、ぐいぐいっと引き込まれる。引き込まれると、全編もう刺激過多で猛スピードで二時間超える映画なので、見終わった後、どっと疲れるぐらいの大活劇。

                      内容は、中二男子理屈映画なので、中二脳にモードチェンジして、まとまりもなくあれこれ書くっす。

                      世界を混乱に陥れる悪ジョーカーは、事情も目的もなくて、純粋な悪として存在する。事情を想像したり、事情を考えたり、事情を知ったりすることは、最初から排除されるべき存在として巧妙に設定される。ジョーカー側に事情があっては困るからだ。
                      どうしてかというと、ジョーカーは、アメリカが考える世界の平和を混乱させている国々の象徴だからだろう。実際のフセインではなく、報道されていた時点でアメリカが妄想した巨悪フセインのような人を象徴しているからだ。このことは、作中でも「ビルマ(ミャンマー)の盗賊」というたとえ話で露骨に示される。
                      で、ジョーカーによって混乱したゴッサムシティは、どんどん犠牲者を出す。
                      「バットマンのせいで警官や市民が死んでいく」「バットマンがやってるのは暴力制裁で私刑である」と市民や警察がバッドマンを批判するのは、アメリカが、今回の戦争で批判されている状況を連想させる。
                      そして、映画はどう終わるのか。

                      詳しくは観てもらうしかあるまい。
                      ああ、日本が戦後に作った怪獣映画のようだ。
                      岡本太郎が宇宙人(パイラ星人)をデザインした『宇宙人東京に現る』で、宇宙人はメッセージを伝えるために「核被害国日本」を選び、「地球を救うのは日本しかない」と宇宙人が言う。新天体Rが地球に衝突するというので日本人は何故か疎開する。アメリカの原水爆で世界を救う計画は失敗し、日本人が発明した爆弾で世界が救われる。という物語は、やはり今見ると、なんて夢のような願望が詰まった展開なんだ、と思わざるをえない。
                      『ダークナイト』がアメリカで大ヒットしたのは、この映画で描かれる正義に対する壮大な言い訳がアメリカ人にとって切実に必要だからだろう(全米興行成績、『STAR WARS』を抜いて歴代2位になるであろう国民的大ヒット。なぜこんなにダークな映画が国民的大ヒットになっているのかって議論が巻き起こってるほどだという)。
                      今回の戦争で自分達は間違っていたのかと罪悪感をうっすらと抱いている人間は、この壮大な言い訳に共感し、すっきりして映画館を出るのだろう。

                      多国籍軍がイラクを空爆するのが1991年。その1年前、1990年にサムライミ監督の『ダークマン』というアメコミテイストのヒーロー映画がある。
                      ダークマンは、高所から落下しそうになった悪役を助ける。宙づりになったままの悪役が「おまえに私は殺せまい」となじる。というシーンがある。それとまったく同じシーンが『ダークナイト』にも出てくるのだが、言われた後のヒーローの行動は、まったく逆だ。いや、その部分だけじゃない。『ダークナイト』と『ダークマン』は、すべてが対称的な作品になっている。
                      あの平和愛好者ぶった鉄腕アトムをみるがいい。口先では、争いはやめてくださいと訴えるふりをしながら、とどのつまりは、よし、ぼくが相手だと大暴力をふるう。毎回、破壊と暴力沙汰の連続だ。ドカンバカンと大暴れしないアトムを見たことがあるか? あの部分だけ技きだしてみれば、可愛らしい顔をした悪鬼外道ではないか。(エイトマンヘの鎮魂歌 平井和正
                      『ダークナイト』で、バッドマンは、全市民を盗聴する(大儀のために、それは肯定されてしまう)。
                      正義のヒーローは、次に何をしでかそうとしているんだろう。



                      余談。
                      映画のヒーローや怪獣映画が、時代背景の影響を受けてどのように変わっていったか、ってことを検証している本ってありそうだと思うんだけど、いい本知ってたら教えてください。
                      木原善彦『UFOとポストモダン』は、時代背景に影響されてどのようにUFOや宇宙人が変わっていったかを検証したスリリングな本。オススメです(騙されないリテラシを養う5冊:こどものもうそう)。


                      余談2。
                      映画のタイトル・バックといえば、ソール・バス! なわけですが、そのタイトルバックを集めたDVDが出る、うはー。『ソール・バスの世界』。“ソール・バスが手がけた映画のオープニング・タイトル・バック10作品と、そのメイキングや制作意図をなんとソール・バス本人が解説する「ソール・バスの映画タイトル集」、妻エレインと共同で制作し1968年度アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞したドキュメンタリー映画「なぜ人間は創造するのか」を収録。”
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