ゲーム化会議用に『1Q84』を読んだ時、ヤナーチェクについてざくっと調べたので、それを元にざくっと書く。雑なのでのちに修正します。ひとまず。
『1Q84』の最初のシーン。何故、タクシーの中でヤナーチェクの「シンフォニエッタ」が鳴っているのか?
「シンフォニエッタ」が持ついくかの側面を調べていくなかでそれを考えてみよう。
ひとつめ。
チェコ国民音楽としてのシンフォニエッタ。
19世紀のチェコの状況をみてみよう。
(地図が表示される)
大きく二つの地方にわかれる。
チェコ西部がボヘミア地方、東部がモラヴィア地方。
このチェコは、ぐるりと他国に囲まれている。
北にポーランド、南にスロヴァキアとオーストリア、西に当時、侵略路線のドイツ。
ヨーロッパの中心に位置しているために、政治的動乱に巻き込まれていた。
オーストリア・ハンガリー二重帝国の支配からチェコが解放されるのは20世紀初頭。
1918年、ボヘミアとモラヴィアとスロヴァキアを合わせた連邦共和国となる。チェコスロヴァキアだね。
その8年後の1926年に「シンフォニエッタ」発表。
(
『ヤナーチェク:シンフォニエッタ』が流れる)
流れている「シンフォニエッタ」は、ズデニェク・コシュラー指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、1977年の演奏。
“若い国家を守護し、漸く勝ち得た独立を守るために”チェコ軍に献呈しようとした「軍隊シンフォニエッタ」。もともと軍楽として構想された曲だ。
「運動会の曲みたい」
そう。この曲はソコル祭典のために作曲されたとも言われている。
ソコルは、愛国的な巨大結社で、3万人を超える人が同じ体操をするというような祭典を行っていた。ヤナーチェクは、ソコルの会員だ。
ちなみに、ヤナーチェク以前に「チェコの国民音楽」としての地位を確立したのがスメタナ。スメタナはボヘミア地方出身。
モラヴィア地方出身のヤナーチェクは、スメタナを批判する。
「スメタナの音楽は、ボヘミア的傾向が強く、ドイツ音楽に傾斜するものである」と。
チェコの音楽は、こういった地域や民俗、伝統といったものを、どのように扱うかといったナショナリズム(民族主義)との関わり合いなくしては語れない。
これは
『1Q84』がひとつのテーマとしているコミューン、宗教・国家・家族的な絆といった問題と関わってくる。
つまり、タクシーの中でシンフォニエッタが流れることで、この小説がコミューンの問題を扱っているということが象徴的に唱われているわけだ。
ふたつめ。
(
『バルトーク : 管弦楽のための協奏曲 / ヤナーチェク : シンフォニエッタ』が流れる)
今度は、
『1Q84』の中で青豆が買ったバージョン。ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の演奏。
「さっきと全然違う」「ゆったりしてる」
演奏によって印象が大きく変わるんだよね。
さて。
デクラマツィオーンという用語がある。「音楽に言葉をのせるとき、どのようにするか」という問題であり、チェコ音楽においてあれこれ論じられてきた課題だ。
19世紀においてデクラマツィオーンは、“言葉の音節上の長短と完全に一致するリズム”であった。
つまり、言葉のアクセントと旋律をぴったり一致させよう、ということだ。
ヤナーチェクは、これを批判する。
「言葉のアクセントだけで旋律がきまっちゃうなんて、つまらない」と。
ヤナーチェクはモラヴィア方言に由来する「発話旋律」に注目する。
「音楽を!もしくは、踊りに行こう!」というフレーズを取り上げ、
1哀願するように
2悲しく
3虚しく
4陽気に
5泣き叫ぶように
といったいろいろな心理的状況に応じて音符化する。
発話の抑揚に違いが生じてくるため、複数の旋律線が描かれる。
発話旋律を書き留めるなかで、ヤナーチェクは「スチャソヴァニー理論」を導き出す。
「リズムの層組織」が形成されると、“結合された時間の中で自由に分割された特徴的な短いリズム型「スチャソフカ」による「ポリフォニック(多声的)な対位法」が生じる”のだ。
いろいろな声があり、それぞれが違う気持ちや立場で発話する。その発話の旋律が層をなせば、ポリフォニックな対位法が生ずる、という考え方だ。
おおぜいの響きを均一に束ねるのではなく、それぞれの声として多層的に構成して、ひとつの作品の中で表現する。
こういったポリフォニックな表現は、
『1Q84』が目指したものだろう。
だからこそ、スメタナでもなくドヴォルザークでもなく、ポリフォニックな考え方が結実したヤナーチェク後期の傑作「シンフォニエッタ」が最初に流れるんだろう。
内藤 久子『チェコ音楽の魅力』P247に、こうある。
“ヤナーチェクの「スチャソヴァーニー理論」では、本来、「スチャソフカの対位法」が生起することによって、いわゆる「ポリリズム(複合リズム)」の関係が生じるのである。”
(
Perfume『ポリリズム』が流れる)
『1Q84』には、いくつものポリリズムが見いだせる。そのうちのひとつは女性キャラのポリリズムだ。ふかえり、青豆、警察官の3人は、そうなってくると当然パフュームのメンバーを連想させ、それぞれの性格から考えても、青豆はあーちゃんで……(以下、「フライデーなんてオレは見ないぜ!」など意味不明なことをわめき散らしはじめたので削除)。
ちなみにチェコ音楽については
『チェコ音楽の魅力』、
内藤 久子『チェコ音楽の歴史』の二冊を参照にしたが、それ以上のことは知らないので、いいかげんな理解のもとに書いた文章です。もっとヤナーチェクについて詳しい人が
『1Q84』について書いてほしい。
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